この子のために、何かつくりたい。
それが、ものづくりの原点ですね。

私は、アイスクリームが好きです。でも、丸いスプーンでハーゲンダッツのカップを食べると、端にアイスが残るでしょ。それが、どうにもくやしくて。 最後の一滴まで掬えるようなスプーンをつくろうという発想（執念？）から生まれたのが「すくう」と名付けた白樺のアイススプーンです。題して、最後まで食べれるシリーズ(笑)。
　現在、制作しているのは木の器が中心ですが、 自分が暮らしのなかで必要とするものを、自分なりにデザインしてつくる、ということを心がけています。使えるもの、実感が湧くもの、といえばいいでしょうか。
　

　札幌市立高等専門学校、現在の札幌市立大学で木工技術の基礎を学びましたが、プロダクトデザインの授業で〝知らない誰か〞のことを想定してつくる、というのが苦手でした。いわゆる汎用品はそれが当たり前です。でも、なんか嘘っぽいと感じていたんですね。本格的な加工技術を身につけるため、卒業後は鯖江
市（福井県）にある木製雑貨の工場で7年間ほど修行しました。そこは、デザイン的にすぐれた製品も多く、技術力も 一流だったのですが、実際に仕事としてものづくりを している現場に入っても、自分には何か違うという感じがしていました。

　製品をつくるというのはそういうものだということは理解できるし、悪いことでもなんでもないのですが、どこか無理矢理つくっているという感じが拭えなくて。つくるということがちょっと嫌になった時期もありました。
　けれども2018年に、小学校の終わり頃から暮らす、南区の自然のなかに戻ってくると、知らないうちに手を動かして、なんだかんだつくろうとしている自分がいたんですね。改めて、ものづくりが好きだということに気づき、それなら、学校で学んだプロダクトデザイン、鯖江の工房で身につけたこと、そして心から感じたことを作品にしてみようと。自分なりのものづくりを追求しようと考えるようになりました。　
　空き家になっていた石山の民家に工房を構えたの は2020年。コロナ禍ということもあり迷いました が、器で漕ぎ出すという思いを木の器=キ、漕ぐ道具=カイと読み替え『キトカイ』という名前でスタートしました。

　ものづくりの現場で実感が得られなかったのはな ぜか。それは、責任感がなかったからではないか。誰か のためを思い、その器を手にとって、おいしく食べる というところまで考えられないと、すぐれたものは創 作できない。そう考えるようになったのは、自分に子 どもが生まれたことも大きいですね。この子のため に、何かつくりたい。ものづくりっていうのは、それで いいんだと。そうなると、ものをつくるのが辛いと感 じることはなくなったし、次はこれをつくってみよう か、というワクワクする思いも強くなりましたね。 これがあったら喜ぶだろうかという自分の視点で 創作することもありますが、想定した相手ではなく、 〝こんなの、あると助かるな〞など、身近な人たちの 声をヒントにものづくりをしていきたいと思ってい ます。

南区から、北海道らしい
伝統を作りたい。